東京高等裁判所 昭和28年(ネ)20号 判決
控訴代理人は、原判決を取り消す。東京地方裁判所が昭和二十七年九月十六日同庁昭和二十七年(ヨ)第四七〇一号仮処分命令申請事件についてなした仮処分決定を認可する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決及び右第二項について仮執行の宣言を求めると申し立て、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の陳述は、次に掲げる事項の外、原判決の記載と同一であるから、これを引用する。
一、控訴代理人は、次のように、附け加えて述べた。
控訴人は、宗教法人宗福寺を相手方として、本件仮処分命令の申請をするもので、横山顕宗は、右法人の代表者として表示したものに過ぎず、同人を相手方となすものではない。控訴人の申請の趣旨は、法人たる宗福寺に対し、職務執行の停止、すなわちその機関たる住職横山顕宗が有する法人のなすべき職務執行の停止を求めるもので、横山顕宗個人の動作の停止を求めるものではない。凡そ仮処分は、申請人の有する権利保全のため、処分禁止の命令を求めるものであるから、その相手方は、該権利の相手方たることを要し、その効力もまた相手方に対するものである。本件においては、その相手方は、法人たる宗福寺であつて、横山顕宗個人ではない。横山顕宗は、その機関にすぎない。
仮りに横山顕宗が、宗福寺の機関に非ず、純然たる第三者だとしても、仮処分申請について相手方たり得る第三者の範囲には、おのずから限度がなければならない。本件仮処分事件の本案訴訟は、控訴人において宗教法人宗福寺に対し、寺院登記の抹消登記手続を求める給付訴訟である。従つて右本案訴訟における判決の既判力は、当該訴訟の原告たる控訴人と被告たる宗教法人宗福寺との間にのみ発生し、第三者には及ばない。従つて本案訴訟が形成訴訟であれば格別、本件のような給付訴訟について、何等既判力の及ばない横山顕宗個人を相手方として、仮の地位を定める仮処分をすることは、仮処分の本案訴訟に対する附随的性格を無視することゝなり、許すべきでない。
二、また前記仮処分命令で代行者に定められた安本太準は、昭和二十七年十月一日東京都知事に対し、宗教法人法附則第五項による寺院規則変更認証申請を行つた後においても、寺院財団の管理等多種の事務存在し、これを処理するためにも代行として留る必要がある。
被控訴代理人は、次のように述べた。
一、東京地方裁判所が先になした仮処分決定の目的とするところは、宗福寺住職たる自然人を交替し、仮の地位を定めたもので、この種仮処分の当事者は、その地位にある自然人でなければならない。その地位を包括する法人を相手方とすることは、通例の形としてあり得ることであるが、仮の地位を定める仮処分において直接の利害関係人は、法人自体ではなく、職務執行の停止を受ける自然人である。従つて自然人である横山顕宗を相手方としない原決定は、その効力を同人に及ぼさないから、決定の目的を達するに由なく違法である。
二、さきになされた決定の定めた代行者安本太準の任務が、寺院規則の認証申請手続をするにあつたことは、仮処分申請書の記載によつて明白であるから、昭和二十七年十月一日同人が右申請手続をなすとともに、仮処分の理由は、目的達成によつて消滅した。事務が残存するとしても、それは横山顕宗において、正当かつ十分に執行し得るもので、代行者の存在の必要はない。
三、しかのみならず、被控訴人は、本件仮処分命令がなされるに先立ち、昭和二十七年七月二十日付を以て、適式な認証手続を完了したところ、仮処分による代行者安本太準は、その後同年十月一日重ねて東京都知事に対して認証の申請をし、被控訴人寺については、二個の申請が併存するに至つた。そしてその後の調査によれば、安本太準のなした右認証申請は、宗教法人法附則第十五項、同法第十三条に違背するものとして却下され、書類は安本太準に返還されたことが明白となつた。従つて仮りに、仮処分決定当時被保全請求権があつたとしても、その後右認証申請却下の事実により、仮処分申請の理由は消滅し、維持できない状態となつたから、被控訴人は、右事情の変更を理由として、本件仮処分の取消を求める。
四、なお横山顕宗は、宗福寺の檀徒二百三十余名中二百五名の絶対多数の信任帰依を受けているところ、控訴人両名のみが争を好み、平地に波らんを起し、大多数檀徒の信仰を阻害し、横山顕宗の勤行、教化を妨害している。かかる行為は明らかに訴権の濫用である、宗教法人法第一条第二項、第八十五条違反の行為であるといわなければならない。
<立証省略>
三、理 由
先ず当事者の適格について判断するに、控訴人の本件仮処分の申請の趣旨は、控訴人が被控訴人寺院に対して提起した寺院登記抹消登記手続請求事件の判決確定にいたるまで、被控訴人寺院の代表者たる住職横山顕宗の住職としての職務の執行を停止し、その間第三者をして仮りに右の職務の執行を代行せしめる仮処分を求めるものであつて、横山顕宗個人について何等の処分をも求めるものでないことは、仮処分申請書の記載及びその後における控訴代理人の釈明によつて明白である。して見れば、本件仮処分申請の趣旨は、あくまで、被控訴人寺院の住職たる横山顕宗について、被控訴人寺院の機関としての職務の停止及び被控訴人寺院の機関たる職務の代行者の選任を求めるものであつて、よし横山顕宗個人が、被控訴人寺院の住職たる職務を一時停止させられたとしても、それは機関たる地位に伴う、反射的の効果に他ならないものと解せられるから、本件仮処分申請の相手方は、被控訴人寺院を以つて足り、住職たる横山顕宗を加えなければならないものとは解されない。
よつて進んで本案について判断するに、控訴人が本件仮処分申請の基本となしている、昭和二十五年七月四日付控訴人両名の被控訴人寺院檀徒総代の解任、訴外大沢竜太郎、相模太郎の同総代の就任、次いで昭和二十六年二月一日付被控訴人寺院規則の改廃が、控訴人主張のように無効であるとの事実については、当裁判所は、未だ疎明を得ることができない。(甲第四号証は、前記寺院規則改廃後のもので、当裁判所は、これを採用することができない。)
そればかりでなく、原審証人伊東泰邦の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第八号証によれば、被控訴人寺院については、昭和二十七年七月二十日東京都知事に対し、宗教法人法附則第五項、同法第十三条の規定による宗教法人規則認証申請がなされていることが認められるから、被控訴人寺院が右申請をしないため解散したものとみなされる危険を避けようとする、控訴人の仮処分を必要とする主張は、その理由あるものとは思われない。またその他に、今直ちに被控訴人寺院の住職横山顕宗の職務の執行を停止し、第三者をしてこれを代行させなければならないような差し迫つた事情については、未だ十分な疎明がない。
以上の理由により、控訴人の本件仮処分申請は、その理由がないから、原審が本案についての審理をもなした上、前記仮処分決定を取り消し、控訴人の仮処分申請を却下したのは、結局正当で、本件控訴はその理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)